2008年10月31日

レストランの空間デザインが果たす役割

個々のレストランの空間を語る前に、現在のレストラン空間を取り巻くいくつかの環境について俯瞰してみたい。デザインの潮流について。そして厨房機能の変化、レストランの専門化について。

■デザインの潮流

ここ10年あまり、レストランの空間は豪華に、そしてテーマ性をもつようになってきている。ポストモダンのデザインが空間デザインの主流となった80年代後期ぐらいから、インテリアデザインという分野におけるデザイナーの活躍の場が広がり、レストランデザインも飛躍的に発展して来た。それまでのレストラン空間というと、古典的なデザインが主流であったものが、いつしかブティックや美術館のようなストイックでモダンなデザインのレストランが多くなり、今ではお店のコンセプトによって多種多様な空間デザインが見られるようになっている。これは料理そのもののコンセプトにも密接に関わっていて、その関係性を見るだけでも実に興味深い。

例えば伝統的な建造物をそのまま利用したレストランであっても、必ずしも伝統料理を提供するわけではなく、むしろその空間の中でクリエイティブな料理を提供する店がある。この場合、伝統的な空間で伝統的な料理を出す店との目的の違いは明らかで、前者が空間と味のハーモニーによって本格的な伝統料理の体験を目的としているのに対して、後者はそのコントラストを利用して、料理の現代性を表現することを目的としている。

ヨーロッパの現代レストランにおいても、数百年の時を経た古い空間の中で現代料理を提供している店がある。ヤニック・アレノ氏が活躍するムーリス(http://www.meuricehotel.com/)などがそうである。最近でこそロンドンやミラノなどの大都市で、モダンなインテリア空間の高級レストランが増えて来たが、これらは若い世代の台頭によってレストランでの体験がエンターテインメント性を帯び、歴史的空間での伝統料理の体験と対照的な位置づけにおかれるレストランが台頭してきたことを意味する。そしてこれらのレストランでは今迄のような形式にとらわれない自由な構成のメニューが提供されてる。例えば、ミラノ「リストランテ・クラッコ」などはまさに都会的な洗練された空間で、今最も新しい料理を楽しませてくれる。

世界各国の「食」をかなりの高水準で楽しむことができるここ日本において、この空間と食のクロスオーバーは更に多様に発展している。もともと日本には世界が羨望のまなざしを向ける美学があり、それは今やデザインの世界のみならず、料理の世界でも常識となった「禅」の思想である。モダニズムからポストモダン、そしてポスト・ポストモダニズムと言える現代において、この「禅」は重要なキーワードになっている。

料理の世界で言えば懐石や鮨のレシピやプレゼンテーション。空間デザインでは数寄屋や草庵、現代の安藤忠雄などのデザインがそれである。既に和食の世界ではモダンデザインと現代和風は違和感なく融合しているし、むしろそれが伝統的と感じることさえある。
一方でピッツェリア、トラットリア、リストランテというカテゴリー分けまで一般化しているイタリア料理ではそのテーマ性の違いでインテリアデザインのテイストも田舎屋風のデザインからモダンデザインまで使い分けるという現実がある。田舎屋風といっても昔のように似て非なるモノではなく、あらゆる建材が直接現地から取り寄せられ、あるいは職人ごと呼び寄せて作るということも一般化しているのだ。
 このように、レストランの空間デザインを巡る価値観の多様化は、今後更に顕著になっていくに違いない。

■ 厨房機能の変化

これはまず電化厨房の普及が上げられる。シェフという職能が憧れの職業になり、その仕事ぶりをプレゼンテーションすることができるようになったのは、一つには電化厨房の発達によるところが大きい。もちろん昔のように強い炎を操りながら見事なフライパンさばきで料理をするというカッコ良さもあるが、荒々しい厨房の環境は、落ち着いた店内の雰囲気とは相容れないものがあり、「見せる」という決断は、なかなか難しいものがあった。今はなき原宿「バスタパスタ」のセンターキッチンは電化厨房なしで見せる厨房を作ったが、東麻布の「カメレオン」や日本橋の「サンパウ」などは電化厨房を使って、美しい「見せる」厨房を実現している。また、しゃぶしゃぶや焼き肉などテーブルで各自が調理するようなレストランでは、これらの機器の進化や発展も空間の条件として大きなウェィトを占めている。

一方「炭火」の人気も最近の流行として上げられる。日本人は特に炭火好きであるから、和洋を問わず、店内で炭を利用する店が増えている。

■ レストランの専門化

特に東京においては最近見たこともないカテゴリーの専門店が目立つようになった。どんな業界でも業界が発展すればするほど、専門化が進む。和食について言えば、僕達日本人にとっては和食というひとくくりにはできないいろんなカテゴリーがある。鮨、そば、懐石、天婦羅、うなぎ、しゃぶしゃぶ、さらには沖縄料理や土佐料理といった郷土料理もある。これらはもしかしたら居酒屋では全て食べられるかもしれないが、全てそれぞれに専門化した日本料理だ。同様に中国料理もイタリア料理も専門店が増えつつある。カフェやスィーツも同様、あるいはワインバーやビアホールもそうだ。それは料理という文化の進化の証しであり、今後ますます増えて行くであろうと予想される。新しいカテゴリーができれば、おのずとそのための空間が生まれるのであり、機能やサービスと共にデザインにも新たな個性が求められることになる。

このような環境のなかで、それぞれに個性を発散させながら営んでいるレストランがある。これから始まるこのコーナーでは、そういう店の造りやデザインについて、あくまで僕の独断的視点になるが、解説してみたいと考えている。

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2008年10月26日

ご挨拶

■はじめに

レストラン。この言葉の響きには何か「特別」な時間と空間を人々の心に喚起させる不思議な魅力がある。普段一緒に食卓を囲む親しい家族や友人、恋人達と一緒に行くのだとしても、それがレストランだとちょっと特別な意味を持つらしい。エットーレ・スコラ監督の作品「星降る夜のリストランテ」ではローマのとあるレストランでの日常が、テーブルごとのドラマをひとつひとつ、時に重ねながら愛嬌たっぷりに描かれている。

Cena05.JPG

しかし僕らにとってはレストランはまだまだ非日常の世界。だからこそ憧れもあるのだろう。 僕達がレストランに期待するもの、それは味、サービスを軸として、空間の心地よさや記憶に残る会話など広い付加価値を含むものだ。このコーナーでは普段あまり語られることのないレストランの「空間」について考えてみたいと思う。そしてできればその考察を通して、オーナーの思いやホールスタッフの考え方、あるいはデザイナーの狙いなどが浮き彫りにできたらと思う。
posted by ニコラス at 23:49| Comment(0) | 概論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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