2009年03月16日

第4回「リストランテ ラ・バリック」江戸川橋

日本家屋をレストランに

東京で今もっとも旬なイタリア料理店というと、一昨年秋にオープンしてほぼ1年半がたつ、江戸川橋の「リストランテ・ラ・バリック」を挙げる人は少なくないだろう。
ここは古い日本家屋を改装したイタリア料理店。オーナーソムリエの坂田真一郎さんのご両親の実家、つまりおじいさんの家であった建物である。坂田さんがこの店で独立して店を構えることを決心したのは2年前になる。幾つかの物件を検討したけれども、経済的条件もあって、やはり自分の原点でもあるこの日本家屋で店を構えることを決意したという。人通りも少なく、店を構える場所としてはかなりの冒険であったと思う。はじめは関係者や今迄のお客様が中心であったが、今や予約を取るのが困難な人気店となっている。おいしい料理やワインの充実が人気の原因であるのは間違いないが、加えて実は日本家屋の良さとレストランとしての使い勝手の良さを両立させた例としては、稀に見るほどうまく行っているのも大きな要因となっている。特別な食卓のためにせっかくオシャレをしてきても、靴を脱いでスリッパに履き替えて、というのは日本人と言えどもさすがに抵抗がある。特に女性の場合、それは大きなポイントになると言えよう。そこで靴を履いたまま使えるようにしたのである。また、それに加えてこの店の良いところは、日本家屋の良さ、懐かしさを残しつつ、レストランとしての機能的なニーズやホールの開放感を十分に確保しているという点も挙げられる。
とにもかくにも、まず全体の構成を見てみよう。

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店の入口は、通りから見る事ができない。ビルの駐車場のようなピロティ(吹きさらしの空間)の壁に小さく「ラ・バリック」の赤い看板がある。これを目印に店を探すのはなかなか注意が必要だ。そのピロティをくぐるとビルの裏側に建物が建っている。綺麗にアレンジされた玄関まわり。この部分だけをみると、日本料理店の入口にしか思えない。玄関の引き戸は、坂田さんが幼少の頃の記憶をたよりに、昔の姿に戻したもの。ガラガラっと木製の格子戸をあけるとそこは玄関。玄関脇の応接間には古い暖炉があり、ピアノが置かれている。この部屋は元々のしつらえに殆ど手を加えずに、クロスや塗装を新しくした程度。ウエイティングスペースや食後酒のための空間として利用している。部屋にはトリノの「バリック」本店からの暖簾分け承認書や、思い出の写真が貼ってあり、所狭しと貴重なワインの空き瓶が並ぶ。

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そこから案内されるメインホールは3つの空間によって構成されている。厨房から連続する中央の空間は、サービス台と2つのテーブルが配置されている。ここは元の建物では仏間だったところ。それに続く床の間のある部屋にも3つのテーブルが並べられている。ここはもと客間であった場所。この空間だけは床をテラコッタで仕上げている。周囲が和のデザインであるのに対し、ここを敢えてタイルで仕上げたことは、訪れる客に違和感なくこの空間にとどまってもらうためのアイディアなのかもしれない。

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さらに奥にはやや細長い空間があって、テーブルが3台配置されている。ここはもとの茶室。先の中央の空間と最後の細長い空間は、スポットライトでテーブル上が照らし出されているのに対し、元客間であった空間は元の天井を活かして照明も埋込み式の蛍光灯照明をそのまま使っている。ただしシラけた光にならないよう、照明器具のカバーに和紙を裏張りしている。そのことでこの空間だけは他とちがって柔らかい光につつまれている。

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厨房は、もと台所であった場所を改造して作られている。さらに古い木造の階段を上っていくと、2階にも一室個室がある。こちらの部屋も懐かしい雰囲気をそのまま残して利用している。この部屋の食卓用家具は蓼科の別荘で使っていたものを持って来たもの。空間だけでなく、家具までも、時を重ねた落ち着きを楽しむ事ができる。

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 そんなレトロ、かつ新しい空間で供される料理は、こちらも新旧どちらも楽しめるメニュー構成となっている。大きな厚紙のメニューを開くと、左側にはスタンダードなコースメニュー。日本各地の新鮮な素材をつかったシェフのオリジナリティあふれる新・イタリア料理で構成されるプリフィクスメニュー。右側のページには月替わりでイタリアの伝統的地方料理のコースが載せてある。イタリア料理の「今」を取入れたメニューとなっている。

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 もともと和の空間というのは畳に座って眺める視線をベースに作られているので、鴨居や障子、床の間など、全てが低い視線で眺めることを基本にデザインされている。椅子に座っているとややその和の空間の重心が自分よりも低い位置にあるように感じられる。テーブルの上に展開するイタリア料理の世界が「和」の支配する空間から少しだけ距離をおいて感じられるのも、そういう理由によるものではないだろうか。我々は客としてレストランを訪れるとき、歩きながら感じる空間と席に座って感じる空間の間に、無意識にその違いを感じている。そうやって異質な2つの空間を見事に融合させているのが、このバリックの空間なのだと思う。着物の女性が本当に似合うイタリア料理店である。

リストランテ ラ・バリック
http://www.labarrique.jp/
東京都文京区水道2-12-2
電話:03-3943-4928
Lunch:11:30〜13:30L.O.
Diner: 18:00〜22:00L.O.
定休日:水曜日/第2火曜日

posted by ニコラス at 01:50| Comment(0) | レストランインテリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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