2010年02月25日

第9回「葡呑」西麻布

「日本人のワインバー」

西麻布に一軒家を改造したワインバーがある。
外から見ても、中に入ってしばらくしても、
どうも「ワインバー」という印象がない。名
前は「葡呑」(ぶのん)
名前はまさに日本的ワインバー。日本人がワ
インバーを突き詰めるとこうなるのかもしれ
ない。今回の空間考は前回に引き続き、空間
に惚れて店をオープンしたこの店を紹介した
い。

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 この店は以前「土火土火」として営業して
いたところ。その当時の空間はほぼそのまま
活かされて、すこし明るい店内になっている。
オーナーの中湊さんに話を伺った。中湊さん
が埼玉蕨のご実家を改装した居酒屋「魚中亭」
をオープンするにあたって設計を依頼したの
がこの「土火土火」と同じ、マカンボの石川
さん。その石川さんからの紹介ではじめてこ
の店を訪れたのは約1年前。前のオーナーか
らこの店を引き継いで営業しないかと誘われ
ていたが、はじめは断るつもりでこの店に来
た。しかし一目見るなりこの空間に一目惚れ。
こんな空間は探しても滅多に出会えるもので
はない。そしてちょうど信頼できるソムリエ
ールの「くまちゃん」が前の店をあがったば
かりと、中湊さんにとっては新店をオープン
するための条件が揃ったこともあり、開店を
決断したとのこと。
 それから自分の店としてやって行くための
最低限の手直しを、デザイナーの石川さんに
依頼した。第一に明るくすること。あまり暗
い空間では賑わいが生まれないし、何より料
理を食べて欲しかったから。照明は骨董店で
購入してそれをつけてもらった。2階は小上
がりになっていたが、やはり靴のまま使える
ようにとテーブル席に変えた。空間に合わせ
て椅子やソファーもかなり年季の入った骨董
でそろえた。店内の木や土壁は再度磨きあげ
て綺麗にした。こうして出来上がった空間は、
ほど良く時間を重ねられた新しい世界に生ま
れ変わった。ゼロから作ったのでは到底成し
得ない表情を創り出している。そしてそうい
う雰囲気とフレンドリーなスタッフの対応で、
開店後すぐに人気のワインバーとなった。今
ではほぼ毎日のようにやってくる客がいると
いう。そんな店で、彼がやりたかったことは、
「日本人のワインバー」。今では海外のワイ
ンメーカーやインポーターがちょくちょくや
ってきては、このワインバーを日本ならでは
のワインバーとして楽しんでいるそうだ。 
お店の雰囲気にあわせて食器類も骨董で約4
00枚そろえた。毎日少しづつ変わるおばん
ざいのメニューも、この空間とお皿にあわせ
て考えられている。そういう日本人の日常に、
自然とワインを合わせてるのが実に見事であ
る。和食の店にワインがおいてあるのとはち
ょっとわけが違う。ホールの真ん中にドンと
おかれたセラーは、客が自分であけてワイン
を取り出せるようにということ。選ぶ楽しみ
を与えてくれている。
 さて、店のディテールについて見てみよう。
店はエントランスを入ると元住宅の玄関だっ
たところにランプとショップカードがおいて
ある。スサ入りの土壁で囲まれた暖かい雰囲
気である。そこから左に広がるホールに向う
と、え?と驚く吹き抜けの空間と、楽しげな
が目に飛び込んでいる。カウンターの裏のグ
ラス棚は、これまた以前の店から引き継いだ
もので、古い和箪笥になっていて、バーとい
う雰囲気ではない。むしろ古い町家の造り酒
屋の番台を思い出す。

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1階は昨年12月から
テーブルを増やし、現在4つのテーブル席が
ある。もともと1階は全てスタンディングで
営業をはじめたが、料理がとても美味しいの
で長居する客が増えたことで、1階にもテー
ブル席をふやすことになったようだ。木造住
宅の構造を残しつつ、柱や梁は必要以上に太
い材に置き換えているので店舗として違和感
がなく落ち着ける。2階にあがる階段は住宅
のそれを利用しているので実際かなりきつい
勾配となっている。2階で食事をして酔っぱ
らうと、帰りがちょっとこわい。

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吹き抜けの廻りにも結構な数の席が作られて
いるので週末など客でいっぱいになると、か
なりにぎやかになるだろうと想像できる。
店内の壁面は、この土壁が十分装飾として機
能しているので、不要な絵や額縁などは飾っ
ていない。それが実に潔い。天井からぶら下
がっている照明の傘、いくつかおかれている
小物やスタンドなどがアクセントを添えてい
るだけ。 一階の道に面した壁に、新たにつ
けられた小窓が3つある。扇子の形をした小
窓には欄間がはめられている。これも中湊さ
んが骨董店でみつけたもので、テーマは松竹
梅。それぞれのモチーフで彫られた欄間を小
窓に嵌めている。窓をあけることで、通りか
ら少し中の様子を伺うことができるようにした。

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 この店は、前回のヴォーロコズィ同様、ま
ず空間があって店ができた。さらにいうと、
この店は空間があって、それからどんな業態
にするかを考えたということだから、店にと
って「箱」というのが如何に大切であるかを
あらためて考えさせられる。

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 西麻布は酒の似合う町である。いろいろな
酒の空間がある。オーセンティックなバーか
ら、わいわいがやがやや楽しめる居酒屋、そ
してエンターテイメント性が強いアミューズ
メントバーもある。そんな西麻布の酒文化の
なかで、葡呑は他にはない、独自の路線で多
くのファンを惹き付ける特別な存在であると
言えるだろう。
posted by ニコラス at 23:30| Comment(0) | バーのインテリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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