2009年05月25日

第5回「青空」銀座

寿司屋 こだわりの空間作り

銀座8丁目、並木通りのにぎやかな喧噪から古いビルの入口を
入る。銀座の歴史を感じさせるような古いエレベーターを使っ
て3階に上がると、そこにはひっそりと、しかし少し新しい風
を感じるような佇まいの入口がある。「青空」。なにかこの銀
座の街並にはそぐわないような爽やかな名前の寿司屋である。

青空と書いてハルタカと読む。店主の高橋さんの実の名前であ
る。高橋さんは北海道の出身。札幌「すし善」の嶋宮勤さんの
もとで修業をしたのち銀座「すきやばし次郎」で研鑽を積み、
2006年12月に自分の店をオープンさせた。寿司屋の基本をしっ
かりと守りつつも、数寄屋の精神を表現したような、非常にシ
ンプルで研ぎすまされた空間がむしろ新鮮な印象さえ醸し出し
ている。

今回は高橋さんの、店作りに対する想いを語ってもらった。

高橋さんがもっとも重要視したことは客の視線。客の立場から、
どのような居心地の良さを演出するかを考えたということであ
る。入口をくぐるとそのまままっすぐホールに入るのではなく、
一旦壁にあてて、左右に曲がりながら暖簾をくぐる。ただ曲が
らせるだけではない。正面の壁には丸く切り取られた開口がと
られ、細竹の格子がはめられている。格子からはカウンター奥
に飾られた季節の花が目に入ってくる。そう、中の様子が小さ
なスクリーンを通して見えるようだ。

entrance1.jpg

左に曲がった先の壁にも小さな窪みがあって、そこには水音を
だす壷がおかれている。

entrance2.jpg


暖簾をくぐると明るくすっきりとした空間が広がっている。現
在の席数はカウンター10席、個室4席であるが、当初の予定で
はカウンターは8席、よりゆったりと座ってもらうつもりであ
ったが、人気の店となって、やはりたくさんの方に楽しんでも
らうため、現在の席数となった。

zenkei.jpg

カウンターとまな板の高さは同じ高さになっており、一枚の檜
板のこっちと向こうで高橋さんと客が対峙するような雰囲気が
作られている。カウンターの後ろ側はまるで床の間。棚や収納
などは何もない。掛け軸と花器、そして常温で保存するネタを
入れた壷や器がきれいに並べられている。

L字型のカウンターが背面の壁と接する部分には、変木を使った
小さな飾り床があって、そこにも小さな壷が飾られている。 

corner.jpg

高橋さんは、こういう工芸品や美術品を飾る場所を店内にいく
つも作りたかったのだそうだ。それは寿司屋という空間である
以上に、茶室や書院の客間のように、主人が客人をもてなすた
めのしつらえであるといえる。カウンターを介しての内と外の
関係などは、先に述べたカウンターの高さについてもそうだが、
その間を仕切る立ち上がりがわずか2センチしかないことから
も彼のこだわりが伝わってくる。

もちろん天井についても、垂れ壁や暖簾などはなく、完全にカ
ウンターと客席が一体となった印象を受ける。また、客席の部
分までがやや低い天井、客席の後ろ側が高くなっているところ
にも、「ひとつの空間」という意図があらわれている。


back.jpg


L型のカウンターの短手の後ろ側は比較的広くなっていて、壁
沿いには腰掛けベンチがおいてある。当初はここが喫煙用の席
にとして計画していたところだが、結局はタバコをたしなむ客
も少なく、今では店内は全て禁煙にして、この場所は早く来た
客が待つときに使ってもらっている。

kitsuen.jpg


素材としてのこだわりは、やはりカウンター。木曽檜の一枚板
を使っている。以前勤めていた札幌「すし善」のカウンターが
彼の理想。厚くて野暮ったいのも自分風じゃない。シンプルに
少し薄め(45ミリ)の板を使った。カウンターの奥行きは現在
396ミリ。450ミリが理想であったが、スペースの制約でどうし
てもそれが確保できなかった点は惜しまれる。カウンターに並
べられる煮切りやツメの壷なども、そのまま、まな板の上にお
くことはせず、その分カウンターを掘込んで低く抑えて全体を
すっきりと仕上げている。

tsubo.jpg

高橋さんの想いは、この小さな空間の中に凝縮している。

今年で3年目とはいえ、まだ始まったばかりの店であるから、
これからもいろいろなところに手が加えられ、発展し続けてい
くであろうことが想像される。寿司という食のスタイルが、掌
に収まる小さな世界に職人の想いと仕事を凝縮するように、そ
れを楽しむ空間も、さりげない飾りや演出が凝縮された、緊張
感のあるものになっている。寿司屋の空間は伝統と形式に制約
を受けながらも、新しい世代の職人達は、確実に自分の主張を
展開しているようである。銀座青空は、そのなかでも一つの代
表的な事例として、次の世代に伝えられるべき精神を持ったす
ばらしい空間であるといえるであろう。

銀座「青空」
中央区銀座8-5-8 かわばたビル3F
電話:03-3573-1144
営業時間:17:00〜23:30L.O.[土のみ23:00 L.O.]
定休日:日曜/祝日

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posted by ニコラス at 23:11| Comment(5) | 割烹/寿司店インテリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
青空さんへは、開店された当初から、お邪魔している者です。
結構な数に上るであろう、雑誌、ネットの紹介には、今迄できうる限り眼を通して来ました(テレビでも紹介されたようですが、見ていません)。
ただ、
青空さんの「空間」に対する想いをこれ程、精緻に言葉と写真で説明された「高度な」ご紹介は初めてです。
有難う御座いました。
Posted by ベイ爺 at 2009年08月28日 22:56
本日、青空さんを訪問したところ、新しい空間が出現していました。
青空さん曰く、「誰も気づいてくれなかったんですよ〜。」とのこと。
また、一つ楽しみが増えました。
小林古径や、河合玉堂の掛け軸が映えます。
Posted by ペイ爺 at 2009年08月29日 00:20
川合玉堂でした。訂正致します。
Posted by ペイ爺 at 2009年08月29日 00:25
ペイ爺さん
コメントありがとうございます。
そうですか、あたらしい空間がまた出現していたのですね。そういう変化に目を向けるのも大切なことですね。たとえば六本木の龍吟さんも先日改装されましたが、山本さんの思いが結構つまっていて話をしてみると如何にみなさん、お店にこだわりをもっておられるかがわかります。
早々お店に伺ってみます。
Posted by 西森陸雄 at 2009年08月29日 00:49
西森陸雄様

青空さんにお願いして、新しい「空間」の写真を一枚撮らせて頂きました。

その「空間」の出現した場所は、腰掛ベンチと個室の間、「小さな石庭」の真上です。

ご参考迄に。

http://ucsprofile.ameba.jp/ucs/index.do
Posted by ペイ爺 at 2009年08月31日 14:45
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