2009年06月25日

第6回「アンティーカ トラットリーア ノスタルジーカ」

舞台装置としてのレストラン

 マリーエの時代から既に5000以上のオリジナルレシピを提供
し続けて来た小林幸司シェフが、1日一客を貫いてきたフォリオリ
ーナ・デッラ・ポルタフォルトゥーナを休止して、6月15日から
新たにトラットリア「アンティーカ トラットリーア ノスタルジ
ーカ」をリニューアルオープンをしている。予約が取れないイタリ
ア料理の代表として、料理好きの間では幻とも言われたレストラン
。その同じ空間がどのようにトラットリアに変化したのか。今回の
「レストラン空間考」ではそれを紹介することにした。

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 エントランスもを含めた外観は以前と同じく上下にガラスが嵌っ
た白い壁と木の壁の間に入口の扉が設けられている。白かった壁は
ややベージュっぽい色の左官材料に変わっており、以前よりは少し
暖かみのある印象を醸し出している。室内も同じベージュの左官材
で仕上げられている。席数は18。フォリオリーナの時はテーブル
が3つであったが、席数は最大で4名だったので、4倍以上に増え
たことになる。それが不思議と無理なく収まっている。一体以前は
どれだけ贅沢な空間の使い方をしていたのか、記憶をたどってみる
が、その時もそれほど間延びした空間であった気がしないのが不思
議だ。 前の店を訪れたことのある者にとっては、まるで舞台の上
のセットが変わったような印象を受けるに違いない。そう、まさに
レストランの空間とは舞台のセットのようなものなのかもしれない
。特に小林幸司シェフの存在はそれを強く印象づけるものでもあり
、料理を一皿運ぶごとに、その詳細なコメントを述べる姿は、舞台
の上で口上を述べる芝居の案内役のようでもあった。


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 小林シェフがフォリオリーナ・デッラ・ポルタフォルトゥーナで
やりたかったことは、「非日常のレストラン空間」の演出であった
。入口の扉を入ると、そこを再び出るまでのあいだは「レストラン
」という特別な時間を満喫してもらうためのさまざまな仕掛けを用
意し、料理そのものもイタリアの伝統を美しい皿の上に再現し、心
はひとときあるはずもない不思議の国へと誘われて行く。小林幸司
シェフの理想としたレストランは、東京ではなく、日本でもない、
非日常の世界であった。しかしここに来てそのテーマを更に追究し
て研ぎすましていくためには、現在の店の場所ではあまりにも無理
がある。扉の向こうにはべたべたの現実があり、客も日常の世界か
ら一瞬で小林ワールドにスイッチしなければならないという無理が
あった。フォリオリーナのスタイルを追究するためには、それに相
応しい場所が必要であると。そしてこの場所には、この場所に相応
しい店のスタイルがある。それが街に開かれたトラットリアである
。「アンティーカ トラットリーア ノスタルジーカ」は、都会で
忙しく生活する我々が日常の中で美味しい食事と酒を楽しめるため
の空間である。理想は毎日でも来たくなる店。肩肘張らずにそれぞ
れのスタイルで気軽に食事を楽しめるような店を目指しているそう
だ。インテリアは床も天井も間仕切りも基本的なものは何一つ変え
ていない。以前は濃い茶色の木の壁とやはり濃いグレーに塗られた
コンクリートブロックの壁で囲まれたコンセプチュアルな空間であ
ったが、それらは全て暖かい色みのベージュの左官材で仕上げられ
、照明の明るさもずっと明るく設定されている。テーブルにはクロ
スが敷かれているものの、椅子はイタリアに良くある籐で編んだ座
面のもの。

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料理のスタイルはまず席につくと、テーブルの真ん中に大皿で煮込
み料理や野菜などの前菜がドーンとおかれて、それを好きなだけ取
って食べる。各自の席には2枚の皿が重ねられてセットされている
が、上の皿だけが次々と変わって料理が運ばれてくる。まさにイタ
リアの古いトラットリアのスタイルそのものである。ワイングラス
も大降りのタンブラーで、ガブ飲み系の飲みやすいワインが好きな
だけ飲めるようなスタイルになっており、ここでも小林幸司シェフ
のこだわりの演出が活かされている。

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 レストランの空間というのは、営業のスタイルやコンセプトによ
ってどのようにも変化するものである。むしろ物理的な空間の広さ
やレイアウトよりもテーブルセッティングや照明、BGMといった
付加的な要素の方が大きな意味をもち、それらが一つの舞台装置と
なって、客やサービスマンのための空間が演出されるといっても過
言ではないだろう。小林幸司さんはそれを自らがプロデューサーと
なって美術から照明、音響までをもやってのけてしまったのである
。まさに完璧主義者である。 
 店はトラットリアのスタイルに変わったものの、相変わらずの人
気で、既に何ヶ月も先の予約が入っている。気軽に通える店という
コンセプトはあっても、さすがに客の数まではコントロールできな
るわけもない。新しい注目店がまた一つ東京に誕生したと言ってい
いだろう。 昨年来、こうした「トラットリア」スタイルのイタリ
アンが東京に再び増えてきた印象があるが、「不況」という時代背
景による業界的な動向とはまったく異なる動機による今回のリニュ
ーアル。時代の波が変化していることを強く印象づける出来事だと
僕は感じている。

アンティーカ トラットリーア ノスタルジーカ
東京都目黒区中目黒4-8-12 1F
電話03−3719−7755
営業時間:18:00〜
定休日:日曜日


posted by ニコラス at 23:11| Comment(2) | レストランインテリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
昔のマリーエには何度か伺いました。シンプルで変に飾ったところのないお料理は奥深く本当に美味しかったです。お店がなくなってしまった時はとても残念でした。フォリオリーナ・デッラ・ポルタフォルトゥーナにはちょっと伺えませんでしたが、こちらのブログを拝見し、今回リニューアルオープンしたお店には是非伺ってみたいと思いました♪
Posted by きらりん at 2009年08月19日 23:57
きらりんさん
コメントありがとうございます。
このところ軽井沢と山中湖に行ったり来たりで更新が遅れておりまして返事も遅くなってしまいました。
小林シェフも先日軽井沢で、また新しいコンセプトのトラットリア「天井と床のないトラットリア」を演出されました。こちらの中目黒のお店には、その彼の新しい挑戦が秘められています。ぜひその新しい挑戦を聞いてみて下さい。
Posted by 西森 at 2009年08月29日 00:45
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