2011年05月04日

第12回西麻布「真」その1

鮨店の空間デザインレポート−1「カウンターの話その1」
レストラン空間考は今回からしばらくの間、現在工事中の西麻布の
鮨店「西麻布真」の工事進行をレポートします。
普段我々は完成した店舗で食事をすることで空間を体験しますが、
その空間がどのように作られて行くか、体験する機会はあまりあり
ません。そこで今回はその工事の状況を詳細にレポートしてみよう
と思います。
さて、現在僕が携わっているのはこれまで西麻布で数年にわたって
営業をしてきた人気鮨店「西麻布真」の移転計画です。現在は西麻
布交差点に近いビルの3階で営業していますが、路面店への移転を
目指して物件を探していました。昨年末にいい物件が見つかり、縁
あってその移転の計画を、資金計画から含めてお手伝いさせて頂く
事になりました。現在は工事が始まり、壁の下地を作っている段階。
 移転先は現在の場所からさほど遠くはなく、やや渋谷によった飲
食店が建ち並ぶ通りに面した1階となります。この物件は道路から
2メートル程度建物がセットバックしており、店構えを作るには理
想的な条件が整っています。路面店の場合、入口が道路に直接面し
ていると、外部と内部が扉一枚で接してしまい、アプローチ空間の
演出にとても苦労します。カフェやビストロなど、街と一体になっ
た空間を演出する場合にはさほど問題にはなりませんが、レストラ
ンや鮨店など、非日常的な空間演出が必要な場合には、この扉一枚
での演出というのはかなり難題となります。むしろ地下や2階にあ
った方が、そこまでのアプローチで心理的な演出をしやすいと言え
るでしょう。
今回はそういう意味で、この2メートルあまりの空間を如何に利用
するかも重要なテーマとなっています。 さて、では室内の概要を
説明します。入口の扉をあけると細い通路が伸びています。

真店舗平面1.jpg

 アプローチは砂利敷をイメージした洗い出し仕上げ。右手には4
人席の個室(小上がり)が作られています。正面の暖簾をくぐると
8席のカウンターが客を迎え入れます。カウンター席と個室の間に
は2人から4人程度が座れる小さなコーナーが設けられ、少し早め
に来店したお客様の待機スペースやテーブル席を希望されるお客様
用に利用します。
 カウンター内の作業スペースの裏には厨房や洗い場が設けられて
おり、外部のベランダに直接出られるようになっています。仕込み
の厨房はトイレと共に、階段を下りた地下に別途設けられています。
 鮨屋の命とでもいえるカウンターですが、今回は6人+2人の
L字型の配置となりました。鮨店のカウンターの場合、一人の職人
が握って客に出す場合にはおのずと物理的な限界があります。僕の
経験では10席が限界です。一人あたりの席巾を60センチから70セ
ンチと想定するとそれでも6メートルから7メートルの幅にカウン
ターが広がることになりますので、一箇所からサービスするのはほ
ぼこれが限界です。10席の場合にはL型、もしくはコの字型のカウ
ンターとして一歩踏み出せば付け台に手が届く程度で収まっている
はずです。一文字のカウンターであれば4から5メートルで8人が限
界でしょう。理想的には6人だと言えます。店舗の地型によっても
大きく左右されるカウンターの形状ですが、あわせて採算性を考え
て今回は8名としました。
 カウンターは一般的に木の材料が使われます。仕上げも素材もさ
まざまですが、最も高級と言われているのは木曽檜の無節材を使っ
たカウンターです。檜のカウンターといっても現在では大木はほぼ
伐り尽くされており、すっきりとした目の細かい柾目の板材は殆ど
手に入りません。入ったとしても数百万円はするでしょう。一方で
昔からなぜか鮨屋のカウンターは無垢材が好まれます。見た目の厚
みとか触り心地など、確かに練りモノ(薄い突き板を集成材の表面
に貼付けたもの)と無垢材ではそれなりに印象が違います。しかし
無垢材にこだわると前述のように入手が困難なため、多少目が粗い
ものや、板目(年輪の模様が表に出ているもの)の材料しか一般的
には使えません。なかなか悩ましいところです。
 今回は主人と一緒にいくつもの板材を見に行きました。その印象
は次のようなものでした。
 吉野檜:吉野は1000年続く林業によって今でもそれなりの大木
     が存在する。厚み、幅とも申し分のない材料はあるが、
     人工林ということもあって目がやや疎い。また独特な赤
     味を帯びた色合いがある。主人にとってはこの赤味のあ
     る色が気になったようだ。また吉野材料は切り出しから
     製材まで約2年の乾燥期間で出荷される。はたしてこの
     2年という歳月が木材の乾燥期間として十分なのかどう
     かが気になった。
 木曽檜:4.5メートルの長さをとれる立派な物だったが、それを
     超えると節が存在する。10年以上の乾燥期間を置いて
     いる材料であったが、コストパフォーマンスを考えると
     なかなか手が出せない。
 栓の木:同じ銘木店で見たものの中に、栓の木があった。多くは
     北海道で産出されるが、これは大木がそれなりの価格で
     入手できるので、見た目には代替品として使えるような
     印象をもった。しかし栓の場合檜よりは柔らかい木であ
     るため、カウンターとして使う場合には何らかの保護剤
     を施しておかなければならない。
 台檜 :国産材ではないが、もう一つ大きな塊の材料を見せても
     らった。それは台湾の檜で「台檜」と呼ばれる木材であ
     る。特徴は強い香りとオレンジがかった色味である。
     やはり鮨店のカウンターとしては色味は重要であるため、
     今回はこれも見送った。
 
カウンター材.jpg



















 結局現在のところ少し木目にあばれのあるものの、本格的な木曽
檜の無垢材を他と比較しても安い価格で提示してくれたものを使用
することになっている。
 さて、カウンターの工事でいつも問題になるのが、木材の乾燥に
よるあばれである。L字型のカウンターでは、その継ぎ目が割れてし
まっているのをよく目にする。木材は生きた材料であるため、何年
も乾燥させた材料であっても、空調の効いた店内で使用すると、ま
たたくまに乾燥収縮が始まり継ぎ目がすいてしまうのだ。無垢材を
使用すると年輪の内側と外側で乾燥収縮率が異なるため、反りや曲
がりも生じてしまう。昔の大工はそうして反ったり曲がったりした
カウンター材をマメにカンナをかけて調整していたが、現代ではそ
ういうメンテナンスをしながら使うという経験があまりないため、
どうしても「反りや縮みがないようにして欲しい」とよく言われる。
 実際、無垢材を使用する場合にはある程度覚悟して使ってもらわ
ないと現実的にはほぼ不可能なのである。今回はそれをわかった上
で使用するため、継ぎ手部分にボルトを仕込んで、すいたらボルト
を閉めるという方法で対応できような継ぎ手を考えている。もちろ
ん壁との取り合いもカウンターを壁に飲み込ませるようにして、収
縮しても壁との間に隙間が生じないように工夫している。
 カウンターの制作は内装全般を担当する工事業者とは別途、主人
が直接買い付けて納品してもらうことになっている。 次回はカウ
ンターまわりの更に細かいデザインや寸法についてレポートします。
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posted by ニコラス at 11:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 割烹/寿司店インテリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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