2011年02月26日

第11回「ル・マンジュ・トゥー」

「シェフの小さな城」

市ヶ谷の住宅街に店を構えてから16年、今尚、最先端のフランス
料理を発信しながら後進達の憧れの的として存在しつづける谷昇
シェフ。今回は谷シェフの城である、この「ル・マンジュ・トゥ
ー」について紹介します。
 とてもシンプルで料理人谷昇の哲学を表現したような内装。し
かしここに至るには長い熟考と思索の期間があったという。もと
もと一つの建物の半分がマンジュトゥで、角を曲がったところに
はタバコ屋があって、その二階がアパートになっていた。移転改
修にあたって、このタバコ店も含めた全体を店舗として使用する
ことになったことで、レストランとしての店構えをきちんと作る
ことができた。
 一階の入口はガラス張りになっていて、外から覗くとカウンタ
ー越しに調理場が全貌できる。カウンターは最初のもくろみで、
酒屋のカウンターをイメージして作ったシェフズデーブル。一品
とグラスワインをちょっと引っ掛けて帰るようなお客様にきても
らおうという気持ちから計画した。とはいえ、上のレストランと
同じメニューをしっかり食して帰るお客様も結構いた。レストラ
ンは一階が厨房、2階がホールになっている。2階にはパントリ
ーと化粧室もあるので、ホールの面積はかなり小さい。席数で
14席。そのうち7席が壁沿いのベンチシートで7脚が椅子。旧
店が24席あったことを考えると思い切った減数である。これに
ついては、以前の店が動線が長く、料理を作ってからお客様に届
けるまでの時間がかかってしまったなどの問題があり、自分達の
経験から考案したできるだけ機能的なサービス動線、お客様にゆ
っくりと過ごしてもらえる空間作りを優先して席数を減らしたと
いうことであった。

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 レストランを入ってから2階のホールには階段を上ってアプロ
ーチする。このアプローチはレストランにとって、とても大切な
プロセスである。日常の喧噪から離れてレストランの扉をあける。
そこがすぐホールだとどうしても気持ちの整理ができずに日常を
引きずったまま食卓につくことになるが、谷シェフはこの道のり
にできるだけ長いプレリュードを演出してくれというリクエスト
をデザイナーに出した。そしてこの階段部分を上るとき、すこし
づつ気持ちが高鳴り、これから始まる食事への期待が高まってく
るのである。
 ホールの空間は、至ってシンプルにできている。余計なものは
なにもなく、気のきいた調度品がいくつか置かれている。レスト
ランによくある絵や写真などははじめから一切置く気はなかった
のだそうだ。脚が音符になっている人形はメートルの楠本氏がロ
イヤルコペンハーゲンで購入したもの。そして皿についてはこれ
も磁器で探した結果リチャードジノリの皿に行き着いた。毎年自
分達が変化している努力をお客様にも感じてもらうため、新作の
発表会には必ず足を運び、少しづつコレクションも増やしている。

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もう一つこの店の特徴として見逃せないのはかすかなアロマの香
りである。もちろん食事を邪魔するようなものではない。おしぼ
り、化粧室のタオルなどにひっそりと潜ませている香り。これは
奥様がチュニジア人の先生から学んだアロマを展開して、季節ご
とに香りを変えて、食事の空間を優しく演出しているものだ。タ
オルやリネンは全て自分達で洗って、管理している。
 椅子についてもこだわった結果、まず7脚ある椅子を決めてか
ら内装のデザインをはじめたということだ。その椅子が空間の中
で確かに主役を演じている。
 谷シェフは今後もっと卓数を減らして食事の時間と空間を改善
していきたいと語る。理想的には一日一客、しかし商売にならな
いので、その分一階のシェフズテーブルも充実させ、ハレの世界
とケの世界をしっかりと分けて、さらに先のレストランを目指し
ている。
 オーナーシェフだからこそできること。それがこの店には満ち
あふれている。現状に満足することなく、あくまで高みを目指す
谷昇シェフの気持ちが伝わってくる。「ル・マンジュ・トゥ」で
はそんな空間も料理の大切な脇役の一つとなっている。
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2011年01月25日

第10回「フォリオリーナ・デッラ・ポルタフォルトゥーナ」

1月23日(日)軽井沢にあのイタリア料理店が移転再開した。
フォリオリーナ・デッラ・ポルタフォルトゥーナ。イタリア料理
好きなら一度は聞いた事のある店名であろう。2002年中目黒で
オープンし、2003年5月からは一日一客の完全予約制のレストラ
ンとなり、会員制でないにも関わらず、新たに予約を入れるのは
ほぼ不可能とまで言われた超人気店であった。2009年6月で一旦
フォリオリーナは休止し、その後個性的なトラットリーアとして
再出発している。この「レストラン空間考」でも採上げさせても
らった「アンティーカ・トラットリーア・ノスタルジーカ」であ
る。シェフ小林幸司さんは、かねてから計画していた軽井沢移住
計画を実行し、先日ようやく自宅兼リストランテの建物が完成し、
ようやくそのフォリオリーナが再開することになった。
 「リストランテというのは、イタリア語の語源をたどるとリス
トラツィオーネ、つまり修復、復興するという意味になる。トラ
ットリーアの語源がトラッターレ、つまり処理するという意味と
比べるとわかるように、食を通じて人生や生活をリフレッシュす
る場所じゃないとならない。つまりリゾートレストランこそ自分
の目標とするもの」と常々語っていたように、都会の中のビルの
一室ではなく、適度に都心から離れることによって移動の時間も
含めて食事をしに出かける事を楽しんでもらいたい。そして自分
の店で過ごす時間は完璧なる「非日常」でなければならないとい
う。ではどのようにしてその非日常が演出されるのか、オープン
前日にお邪魔してしっかりとその秘密を探ってきた。

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 東京駅から約1時間10分、軽井沢駅に降り立つと、あたりはう
っすらと雪化粧。軽井沢駅からタクシーに乗り、「中軽井沢の星
野エリアを超え、塩壷温泉ホテルの向い側にある小林さんのお宅
にお願いします。」と伝える。そう、レストランの名前ではなく
シェフの名前を伝えるのだ。軽井沢のタクシーでは他にも「エル
ミタージュ」と言えば「あ、田村さんのところね」と帰ってくる
ように、シェフはみんな店名ではなく名前で認識されている。明
らかにこの時点で、気持ちは遠い友人宅を尋ねて来たような高揚
感に包まれる。車は星野エリアを過ぎてしばらく行くと何も看板
のない小径を左に曲がる。見えてきたのは黄色いワーゲンビーグ
ルが泊まる一軒家。水平な屋根と床のデッキが印象的な佇まい。
車に気づいて小林シェフがコックコートで出迎えてくれた。

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夜ともなると周囲はまったく明かりもなく、完全な闇に包まれて、
建物だけが光に浮かび上がる。軽井沢でも特に神秘的な空間とな
っている。
 玄関にはLa Salaという表示。La Salaとは、いわゆるホール、
或いはメインルームの意味。左側にはKobayashiと書かれた扉が
あるが、こちらは小林シェフの自宅の玄関。扉をあけると正面に
は彼の書棚がおかれている。古いレシピ本や食材百科事典などが
目に入る。化粧室の扉、ワインセラー、厨房の入口の先に個室へ
の入口がある。そう、新しいフォリオリーナは個室が1室のみ。
4人テーブル(最大6名)と暖炉、そして森に向って放たれた大
きな窓があるだけ。冬を中心に営業をするという小林さん。まさ
に一日一客のためのしつらえのみが用意されていた。
部屋は中目黒の店と同じような印象の仕上げ材が使われているの
で、軽井沢であるにも関わらず、違和感なくあの「フォリオリー
ナ・デッラ・ポルタフォルトゥーナ」であると感じる。唯一違い
を感じるのはモスグリーンの革で仕上げられた壁。以前のフォリ
オリーナは焦げ茶色の木材、黒い床、左官の壁と天井であった。

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革という素材は新生フォリオリーナの新しいシンボルとなってい
る。個室には隣の厨房との間に小窓があけられていて、厨房の様
子がほんの少し伝わってくる。しかしその小窓から見えるものは
厨房器具でもなく、調理をするシェフでもなく、やはり書物が並
んだ棚。小林さんにとってのここの厨房は、厨房というより、む
しろアトリエといった印象。とても綺麗に整理整頓され、そして
森に面した大きなガラス窓で覆われている。料理を楽しむために
だけ特別にデザインされた個室と、料理を創造するためにデザイ
ンされたアトリエのどちらもが、軽井沢の森に囲まれて存在して
いるといった印象だ。 

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個室の窓の先には奥行きのあるテラス空間が設けられて、そこに
も椅子席が並べられている。夏になって気候が暖かくなったら、
今度はこのテラスで食事を楽しんでもらう予定だとか。そしても
う一つ、彼がやってみたいことがある。それこそがこの軽井沢の
店のテーマとなった「天井のないレストラン」である。建物は自
宅部分とレストラン部分がL字型に配置され、それらに囲まれた部
分が広々とした庭となっている。夏の間、小林さんはフォリオリ
ーナの営業をやめて、この中庭を使って「天井のないレストラン」
を営業するという目標を持っている。天井のないレストランでは
子供連れのファミリーが周囲の客に気兼ねする事なく子供達と一
緒に遊びながらゆっくりと食事が楽しめる。そんな夏のリゾート
に相応しいレストランに育てていきたいと語ってくれた。

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 一日一客だけの店だからこそできる事。昼からじっくり時間を
かけてこの小林さんの「家」で過ごす時間を楽しむとか、夜更け
までシェフと語り合うとか。そんな客のわがままを何でも実現で
きてしまうような気がする。軽井沢にきて、小林マジックは更に
パワーアップして我々を楽しませてくれそうだ。次は夏にあって
「天井のないレストラン」を楽しみに訪れてみたい。

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フォリオリーナ・デッラ・ポルタフォルトゥーナ
アルベリーニ(屋外レストラン部分)
長野県北佐久郡軽井沢町長倉2147-689
電話0267-41-0612
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2010年01月25日

第8回「ヴォーロ・コズィ」

2006年6月、10年に渡るイタリアでの活動に終止符を打って
帰国、自らの料理の世界を表現するためにオープンした「ヴォーロ
・コズィ」。何の由縁もない文京区白山という場所を選んだ。レス
トランを営む場所としては比較的難しい地理的条件であるにもかか
わらず、オープン当初から話題のイタリアンとして常に満席の客で
にぎわっている。
もともとは「ル・ベルドジュール」というフレンチの名店があった
場所を居抜きで借りて、店をオープンした。イタリアンの世界では
、若い才能がモダンで創造的なイタリア料理を次々と展開して話題
となっている今日にあって、西口さんの料理やその世界観は、それ
らとは一線を画している。彼の料理は、西口さんが10年をすごし
てきた北イタリア各地の伝統料理がベースとなっている。奇をてら
うことなくまじめにその技術や伝統を大切にし、安定した満足感を
提供している。その姿勢は店の環境作りにも現れている。
 元の「ル・ベルドジュール」というフレンチレストランの世界観
は世紀末のアールヌーヴォー調のデザインで統一されており、非常
にオーセンティックな空間のイメージを醸し出していた。表の店構
えもどこかパリの街角を思い起こさせるような造りで、イタリアの
それとはかなり印象が異なるが、それを敢えてそのまま利用するこ
とで、西口さんが目指す「伝統をベースにした現代イタリアン」を
イメージさせようとしているのではないだろうか。「伝統」とか
「時間の経過」を手に入れることはそう簡単なことではない。

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 すりガラスの大きな庇があるエントランスには蔦が程よく絡まり
デザインのモチーフとなる植物が空間の主役となって客を迎える。
手の込んだ造りの鉄と木のフレームのガラス扉をあけて中に入ると
、エントランス廻りには骨董の家具やベルベットのカーテンが吊ら
れ、適度な時代感があってレストランという特別な空間への期待感
が高まってくる。正面には店名を掘込んだ額縁付きの鏡が飾られ、
さらに中を覗くと曲線で縁取りされた鏡、そして艶の出るほど磨か
れた木調の造作家具で飾られた店内の景色が目に飛び込んでくる。

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奥行きのあるホール空間は入口右手にやや全体からは区画された半
個室のテーブル席が一つ。右側の壁に沿って一列に並べられたテー
ブル席、突き当たりの窓沿いにもテーブル席が3つ。それら全体を
見渡すように左側の壁に沿ってサービスカウンターやデシャップが
あり、その裏側にキッチンが作られている。
 どこいにも奇をてらったデザインやわざとらしい仕掛もない。非
常にシンプルで、サービススタッフも動きやすいレイアウトとなっ
ている。内装の木と同色の椅子は、座面が深紅のベルベット。左右
の壁は曲線を描く木のフレームで縁取られた鏡で覆われ、シンプル
な空間であっても、その空間が鏡に写り込み、奥行き感のある空間
を演出している。

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 空間だけではなく、テーブルセッティングもとてもクラシカルな
スタイルである。真っ白なアンダークロスは床ギリギリまでかぶる
ように敷かれ、その上にトップクロスが敷かれている。サービス台
のアンダークロスは椅子の座面と同じ赤。店内の色のバランスが非
常に美しい。シルバー類は8本のカトラリーがフルセットでセッテ
ィングされる。花柄のショープレート、グラス類などと共にテーブ
ルの上は美しくセッティングされている。最近では、シルバー類も
次の皿で使うものだけを並べて、皿と共にまた次のシルバーをセッ
トするシンプルで機能的なスタイルが主流であるが、こういうクラ
シカルなディスプレイも、西口さんの目指すレストラン空間にとっ
て、大切な意味を果たしていると言える。

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 新しい店をオープンすると、どうしてもその新しさが「軽さ」と
なってしまうことがある。それを避けるために、骨董の調度品やエ
イジング仕上げなどで対応するのであるが、そういう視点からみる
と、もともと老舗のレストランであったこの場所は、ある意味理想
的な条件であったと言うこともできる。ただ、使用している皿、グ
ラス類は全て新しく用意したもの。消耗品とも言えるこららの設備
については清潔感や料理やワインの現代性を考えて、それに相応し
いものにしたということであろう。
 このようにヴォーロコズィでは、長く受け継がれてきた質の高い
デザインの空間と背景に囲まれて、伝統料理をベースにした西口さ
んの本格的なイタリア料理を楽しむことができる。イタリア料理で
は珍しくクラシックな空間で楽しむ現代料理である。この店に食事
にいったら、料理を楽しむだけではなく、ぜひこの時間のしみ込ん
だ空間も一緒に堪能してもらいたい。


ヴォーロ・コズィVolo cosi
住所:東京都文京区白山4-37-22
電話:03-5319-3351
営業時間:12:00〜13:30(L.O) / 18:00〜21:30(L.O)
定休日: 月曜日/第3日曜日/火曜日のランチ
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2009年09月26日

第7回「リストランテ イ・ルンガ」

今年3月まで西麻布のイタリアンレストラン「ラ・グラディスカ」
の料理長を務めていた堀江純一郎さんが、8月25日から新天地、
奈良であらたなスタートを切った。
店の名前は「イルンガ」=Ilunga イタリア語でアルファベット
のJ(ジェイ)をI lungo = イルンゴ、つまり「長いI」という呼び方
をする。JapanのJ、そのイタリア語読みに、斑鳩「いかるが」を
組み合わせた造語が「イルンガ」である。 

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場所は奈良公園の中心に位置し、東大寺参道の入口まで30メー
トルくらいの場所にある。古い武家屋敷を改造した施設で、土塀
と長屋門が店構えとなる実に奈良らしい街並の中にある。堀江さ
んはイタリアでの長い経験をもとに、食が東京などの大都市圏に
集中する日本のレストラン業界の現状に対し、常に疑問を投げか
けてきた。自ら水俣や新潟などの地方に出かけて行って、その土
地の生産者と交流し、土地の作物の魅力を訴えてきた。彼がなぜ
新天地を奈良に求めたかについては、いくつかの理由があるであ
ろうが、最初にこの場所を訪れた時に、その恵まれた環境と自ら
が訴えてきた地方の魅力をどちらも併せ持つロケーションと、古
い建物だけが持つ、歴史と時間の積み重ねが、イタリアで彼が大
切にしてきたものと重なって思えたのだという。
 この店では2つのコースメニューが用意されている。一つが地
元の素材だけでつくる「大和コース」、もう一方が地元の素材を
中心にしながらも美味しい旬の素材を日本各地、イタリアからも
取り寄せて作った「都のコース」。奈良を意識しながらも、自ら
の料理の原点であるピエモンテを忘れないという姿勢が伝わるメ
ニュー内容であった。
 以前このコーナーでも紹介した江戸川橋の「ラ・バリック」と
同様、日本家屋の良さを十分活かしながらレストランとして営業
できるように改造しているが、バリックが民家であるのに対し、
イルンガは武家屋敷。内容はかなり異なる。道路に面した土壁部
分に鉄板をくり抜いたロゴの看板がぼんやりと浮かび上がる。近
づいてみないと何の店なのかわからない。長屋門の格子戸を通し
ては、玄関までつづく飛石の列がほのかに見え、実に日本的な路
地空間が演出されている。玄関の右側には大きめの個室が位置し
、玄関の前を通ると中の賑わいが漏れてくる。

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玄関から室内にかけては土足で上がれるように、石とタイルの床
で構成されている。玄関ホールの正面には受付レセプションのカ
ウンターがあり、天井は高い吹き抜けになっていて古い小屋組が
あらわしになっている。受付からメインダイニングの様子が感じ
られるように、エントランスホールとメインダイニングとの間の
壁にはあらたに開口が設けられ、格子がはめられている。玄関の
見返りには大きなガラスの嵌め殺し窓があるが、ここは選出の玄
関が家人のものとすれば、お殿様がカゴのまま出入りするための
特別な玄関であったところ。その部分を活かして庭を眺める開口
部としている。


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メインホールは全てフローリングで仕上げられ、天井は元の竿縁
天井をそのまま活かし、照明の存在感をなくすためにさらに掘込
んだ部分にダウンライトを埋込む工夫がされている。6つの円卓
がゆとりをもって配置され、中庭を挟んだ厨房でのシェフ達の動
きを眺められるようになっている。


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厨房をオープンにする店が最近は多くなってきた。シェフのアト
リエを公開することで、そのこともエンターテインメントの一つ
と捉えている。この店では和の空間の良さを殺さずその楽しみを
演出するために「中庭」という外部空間をうまく活かして厨房の
公開を実現している。逆に言えば、シェフの立つデシャップから
もメインホールの様子が見て取れるということである。 イルン
ガにはもう一つ特別な空間が存在する。それは6畳の本格的な茶
室である。草庵風のこの茶室も特別な個室として使用されること
になっている。ここではさすがに靴を脱ぎ、座椅子で畳に直接座
って堀江シェフの料理を楽しむことができる。まだ飾り付けも行
なわれていない床の間に、何が飾られるのかも楽しみである。

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食事という目的はそれだけでも十分に旅をする目的となりうると
思うが、食だけではなく文化や自然といった地域固有の情緒を感
じることも、また旅の楽しみの一つかもしれない。 東京から飛
び出し、日本の奥座敷に新しい活躍の場を求めた堀江純一郎さん。
奈良という土地ならではの食の楽しみ方を提案して行ってもらい
たい。

リストランテ イ・ルンガ
奈良市春日野町16番地
電話:0742-93-8300
営業時間:11:30〜14:00(L.O)
     18:00〜22:00(L.O)
定休日:不定休
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2009年06月25日

第6回「アンティーカ トラットリーア ノスタルジーカ」

舞台装置としてのレストラン

 マリーエの時代から既に5000以上のオリジナルレシピを提供
し続けて来た小林幸司シェフが、1日一客を貫いてきたフォリオリ
ーナ・デッラ・ポルタフォルトゥーナを休止して、6月15日から
新たにトラットリア「アンティーカ トラットリーア ノスタルジ
ーカ」をリニューアルオープンをしている。予約が取れないイタリ
ア料理の代表として、料理好きの間では幻とも言われたレストラン
。その同じ空間がどのようにトラットリアに変化したのか。今回の
「レストラン空間考」ではそれを紹介することにした。

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 エントランスもを含めた外観は以前と同じく上下にガラスが嵌っ
た白い壁と木の壁の間に入口の扉が設けられている。白かった壁は
ややベージュっぽい色の左官材料に変わっており、以前よりは少し
暖かみのある印象を醸し出している。室内も同じベージュの左官材
で仕上げられている。席数は18。フォリオリーナの時はテーブル
が3つであったが、席数は最大で4名だったので、4倍以上に増え
たことになる。それが不思議と無理なく収まっている。一体以前は
どれだけ贅沢な空間の使い方をしていたのか、記憶をたどってみる
が、その時もそれほど間延びした空間であった気がしないのが不思
議だ。 前の店を訪れたことのある者にとっては、まるで舞台の上
のセットが変わったような印象を受けるに違いない。そう、まさに
レストランの空間とは舞台のセットのようなものなのかもしれない
。特に小林幸司シェフの存在はそれを強く印象づけるものでもあり
、料理を一皿運ぶごとに、その詳細なコメントを述べる姿は、舞台
の上で口上を述べる芝居の案内役のようでもあった。


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 小林シェフがフォリオリーナ・デッラ・ポルタフォルトゥーナで
やりたかったことは、「非日常のレストラン空間」の演出であった
。入口の扉を入ると、そこを再び出るまでのあいだは「レストラン
」という特別な時間を満喫してもらうためのさまざまな仕掛けを用
意し、料理そのものもイタリアの伝統を美しい皿の上に再現し、心
はひとときあるはずもない不思議の国へと誘われて行く。小林幸司
シェフの理想としたレストランは、東京ではなく、日本でもない、
非日常の世界であった。しかしここに来てそのテーマを更に追究し
て研ぎすましていくためには、現在の店の場所ではあまりにも無理
がある。扉の向こうにはべたべたの現実があり、客も日常の世界か
ら一瞬で小林ワールドにスイッチしなければならないという無理が
あった。フォリオリーナのスタイルを追究するためには、それに相
応しい場所が必要であると。そしてこの場所には、この場所に相応
しい店のスタイルがある。それが街に開かれたトラットリアである
。「アンティーカ トラットリーア ノスタルジーカ」は、都会で
忙しく生活する我々が日常の中で美味しい食事と酒を楽しめるため
の空間である。理想は毎日でも来たくなる店。肩肘張らずにそれぞ
れのスタイルで気軽に食事を楽しめるような店を目指しているそう
だ。インテリアは床も天井も間仕切りも基本的なものは何一つ変え
ていない。以前は濃い茶色の木の壁とやはり濃いグレーに塗られた
コンクリートブロックの壁で囲まれたコンセプチュアルな空間であ
ったが、それらは全て暖かい色みのベージュの左官材で仕上げられ
、照明の明るさもずっと明るく設定されている。テーブルにはクロ
スが敷かれているものの、椅子はイタリアに良くある籐で編んだ座
面のもの。

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料理のスタイルはまず席につくと、テーブルの真ん中に大皿で煮込
み料理や野菜などの前菜がドーンとおかれて、それを好きなだけ取
って食べる。各自の席には2枚の皿が重ねられてセットされている
が、上の皿だけが次々と変わって料理が運ばれてくる。まさにイタ
リアの古いトラットリアのスタイルそのものである。ワイングラス
も大降りのタンブラーで、ガブ飲み系の飲みやすいワインが好きな
だけ飲めるようなスタイルになっており、ここでも小林幸司シェフ
のこだわりの演出が活かされている。

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 レストランの空間というのは、営業のスタイルやコンセプトによ
ってどのようにも変化するものである。むしろ物理的な空間の広さ
やレイアウトよりもテーブルセッティングや照明、BGMといった
付加的な要素の方が大きな意味をもち、それらが一つの舞台装置と
なって、客やサービスマンのための空間が演出されるといっても過
言ではないだろう。小林幸司さんはそれを自らがプロデューサーと
なって美術から照明、音響までをもやってのけてしまったのである
。まさに完璧主義者である。 
 店はトラットリアのスタイルに変わったものの、相変わらずの人
気で、既に何ヶ月も先の予約が入っている。気軽に通える店という
コンセプトはあっても、さすがに客の数まではコントロールできな
るわけもない。新しい注目店がまた一つ東京に誕生したと言ってい
いだろう。 昨年来、こうした「トラットリア」スタイルのイタリ
アンが東京に再び増えてきた印象があるが、「不況」という時代背
景による業界的な動向とはまったく異なる動機による今回のリニュ
ーアル。時代の波が変化していることを強く印象づける出来事だと
僕は感じている。

アンティーカ トラットリーア ノスタルジーカ
東京都目黒区中目黒4-8-12 1F
電話03−3719−7755
営業時間:18:00〜
定休日:日曜日


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2009年03月16日

第4回「リストランテ ラ・バリック」江戸川橋

日本家屋をレストランに

東京で今もっとも旬なイタリア料理店というと、一昨年秋にオープンしてほぼ1年半がたつ、江戸川橋の「リストランテ・ラ・バリック」を挙げる人は少なくないだろう。
ここは古い日本家屋を改装したイタリア料理店。オーナーソムリエの坂田真一郎さんのご両親の実家、つまりおじいさんの家であった建物である。坂田さんがこの店で独立して店を構えることを決心したのは2年前になる。幾つかの物件を検討したけれども、経済的条件もあって、やはり自分の原点でもあるこの日本家屋で店を構えることを決意したという。人通りも少なく、店を構える場所としてはかなりの冒険であったと思う。はじめは関係者や今迄のお客様が中心であったが、今や予約を取るのが困難な人気店となっている。おいしい料理やワインの充実が人気の原因であるのは間違いないが、加えて実は日本家屋の良さとレストランとしての使い勝手の良さを両立させた例としては、稀に見るほどうまく行っているのも大きな要因となっている。特別な食卓のためにせっかくオシャレをしてきても、靴を脱いでスリッパに履き替えて、というのは日本人と言えどもさすがに抵抗がある。特に女性の場合、それは大きなポイントになると言えよう。そこで靴を履いたまま使えるようにしたのである。また、それに加えてこの店の良いところは、日本家屋の良さ、懐かしさを残しつつ、レストランとしての機能的なニーズやホールの開放感を十分に確保しているという点も挙げられる。
とにもかくにも、まず全体の構成を見てみよう。

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店の入口は、通りから見る事ができない。ビルの駐車場のようなピロティ(吹きさらしの空間)の壁に小さく「ラ・バリック」の赤い看板がある。これを目印に店を探すのはなかなか注意が必要だ。そのピロティをくぐるとビルの裏側に建物が建っている。綺麗にアレンジされた玄関まわり。この部分だけをみると、日本料理店の入口にしか思えない。玄関の引き戸は、坂田さんが幼少の頃の記憶をたよりに、昔の姿に戻したもの。ガラガラっと木製の格子戸をあけるとそこは玄関。玄関脇の応接間には古い暖炉があり、ピアノが置かれている。この部屋は元々のしつらえに殆ど手を加えずに、クロスや塗装を新しくした程度。ウエイティングスペースや食後酒のための空間として利用している。部屋にはトリノの「バリック」本店からの暖簾分け承認書や、思い出の写真が貼ってあり、所狭しと貴重なワインの空き瓶が並ぶ。

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そこから案内されるメインホールは3つの空間によって構成されている。厨房から連続する中央の空間は、サービス台と2つのテーブルが配置されている。ここは元の建物では仏間だったところ。それに続く床の間のある部屋にも3つのテーブルが並べられている。ここはもと客間であった場所。この空間だけは床をテラコッタで仕上げている。周囲が和のデザインであるのに対し、ここを敢えてタイルで仕上げたことは、訪れる客に違和感なくこの空間にとどまってもらうためのアイディアなのかもしれない。

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さらに奥にはやや細長い空間があって、テーブルが3台配置されている。ここはもとの茶室。先の中央の空間と最後の細長い空間は、スポットライトでテーブル上が照らし出されているのに対し、元客間であった空間は元の天井を活かして照明も埋込み式の蛍光灯照明をそのまま使っている。ただしシラけた光にならないよう、照明器具のカバーに和紙を裏張りしている。そのことでこの空間だけは他とちがって柔らかい光につつまれている。

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厨房は、もと台所であった場所を改造して作られている。さらに古い木造の階段を上っていくと、2階にも一室個室がある。こちらの部屋も懐かしい雰囲気をそのまま残して利用している。この部屋の食卓用家具は蓼科の別荘で使っていたものを持って来たもの。空間だけでなく、家具までも、時を重ねた落ち着きを楽しむ事ができる。

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 そんなレトロ、かつ新しい空間で供される料理は、こちらも新旧どちらも楽しめるメニュー構成となっている。大きな厚紙のメニューを開くと、左側にはスタンダードなコースメニュー。日本各地の新鮮な素材をつかったシェフのオリジナリティあふれる新・イタリア料理で構成されるプリフィクスメニュー。右側のページには月替わりでイタリアの伝統的地方料理のコースが載せてある。イタリア料理の「今」を取入れたメニューとなっている。

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 もともと和の空間というのは畳に座って眺める視線をベースに作られているので、鴨居や障子、床の間など、全てが低い視線で眺めることを基本にデザインされている。椅子に座っているとややその和の空間の重心が自分よりも低い位置にあるように感じられる。テーブルの上に展開するイタリア料理の世界が「和」の支配する空間から少しだけ距離をおいて感じられるのも、そういう理由によるものではないだろうか。我々は客としてレストランを訪れるとき、歩きながら感じる空間と席に座って感じる空間の間に、無意識にその違いを感じている。そうやって異質な2つの空間を見事に融合させているのが、このバリックの空間なのだと思う。着物の女性が本当に似合うイタリア料理店である。

リストランテ ラ・バリック
http://www.labarrique.jp/
東京都文京区水道2-12-2
電話:03-3943-4928
Lunch:11:30〜13:30L.O.
Diner: 18:00〜22:00L.O.
定休日:水曜日/第2火曜日

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2009年01月18日

第3回「ミラヴィル・インパクト」/銀座

まさに「Tsushimiワールド」のレストラン

目黒区駒場の人気フレンチ「ミラヴィル」の都志見セイジシェフといえば、自由な発想でいつも驚きと感動を与えてくれるフランス料理人として、多くのファンが認めている。その都志見シェフが、一昨年夏、銀座のマロニエゲートにオープンさせた2店鋪目「ミラヴィル・インパクト」が、オープン当初から各方面で話題となったのは記憶に新しい。何せメニューが「デザートのコース」なのである。これはパティシエではおそらく発想しない、あくまで料理のシェフが考えた新しいスタイルである。都志見シェフはこれをデザートのコースといわず、敢えて「甘い料理のコース」と表現してくれた。このミラヴィル・インパクトは、その店鋪のコンセプトから店内のデザインに至る迄、全て都志見さんがプロデュースしたという、彼の思いの詰まった店である。3回目の「レストラン空間考」ではその魅力あふれる店鋪について考察してみようと思う。

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まず、都志見シェフによると、この「スィーツのコースメニュー」というのは、料理のコースの中で、最後を飾る、最も印象に残る「デザート」を使ってコースメニューを作れば、それはきっととても楽しい店になるに違いない、という発想から生まれたものらしい。この発想から考案されたデザートコースは昼間はもちろんの事、夜はどこかで食事をして来た二人が、最後のデザートはインパクトで、という具合にその日の最後の締めくくりとして利用してもらう事を狙っていた。もちろんワインや食後酒の用意もあって、とある雑誌では「お酒とデザート」という切り口で紹介されたこともある。 このような前例のない業態であるから、もちろん店内のデザインやレイアウトも一つ一つが新しい発想から生まれている。

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 都志見シェフはこの新しい店のためのコンセプトとして、やはり「オリジナリティ」を挙げてくれた。他には前例のないメニュー構成をキチンと空間でも表現したい、ということでメニューや皿の上のデザインと、空間のデザインが一体化したような店作りをめざした。結局内装デザインも全て都志見さん自身でやったということである。そうすることで、まさに「都志見ワールド」を具現化できうると考えたのである。
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エスカレーターを上ると正面がインパクト。入口には大きなロゴの入った店舗看板があり、店内に入るとすぐ、いろんなポーズの都志見シェフの写真が並べてあって、シェフご本人がお客様をお迎え?いや、これは結構インパクトがある。そのシェフの写真の隣にはワインセラー。デザートとお酒という組み合わせを予感させる。

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右側のコーナーシート部分の壁と椅子には元気一杯のウォールペインティングが施されている。これも都志見さん本人が一日で書き上げた作品だ。タイトルは「四角い太陽」。太陽のエネルギーを表現している。まさに強くて印象的なデザインである。店内はこの「四角い太陽」の絵をはじめ、様々なところにヴィヴィッドな色彩が使われており、巷のカフェやレストランのシックなテイストとはおよそかけ離れたイメージの空間となっている。

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壁が白、天井が真っ黒更にガラスや鏡も多用している。そこに深紅のベンチシートやカウンター上部のLEDランプはブルー、テーブルにセットしてあるショープレートは赤、黒、黄色といった具合だ。そんなカラフルな空間に包まれて、都志見シェフの提案するスィーツのコースメニューを楽しむことになる。まさに首尾一貫したシェフの世界観が演出されていると言っていい。

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カウンター席が中心となっているが、これはやはり目の前で美しいデザイートを盛りつけるところも見せたいという思いから。しかしイメージとしてはシャレたバーのような雰囲気で、お酒やシャンパンをグラスで頼みたくなるという効果も十分にありそうだ。カウンターの高さは97センチと比較的低い。一般的なテーブルは75センチ程度、バーカウンターは100センチ〜110センチが標準的であるから97センチというのはその中間ぐらいの感じであろうか。このカウンターに対して椅子の高さが68センチとなって、やや低めの設定。従って座った時の印象はハイカウンターでありながらかなりしっかりと座った印象になる。つまり天板の高さがやや高い位置に感じることになる。自然と体は肘をついてグラスを傾けるバーというより、ナイフとフォークを使って食事をするという姿勢になる。よく考えられた設定だ。
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 このミラヴィル・インパクトがスタートしてから、都志見さんの料理にはどんな影響が出ているのか聞いてみた。「それぞれにコンセプトが違うので面白いです。インパクトは自由な発想でいろんな事に挑戦できるから、そこで試してみたものを、ミラヴィルのメニューにフィードバックしたりできて、結構楽しんでます。また同じメニューであってもお客様のカラーが違うせいか、異なる感想や反応があるので、そのあたりは今後の展開のための参考になりますね」
シェフ、都志見セイジの挑戦はまだまだ続きそうで、目が離せない。

ミラヴィル・インパクト
http://www.miravile.net/

東京都中央区銀座2-2-14
マロニエゲート10F
03-5524-0417
11:00〜23:00(LO22:00)
年中無休

ラベル:フレンチ
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2008年12月18日

第2回「カピトリーノ」/西麻布

扉の向こうはローマだった。

昨年オープン30周年を迎えた西麻布のイタリア料理店「カピトリーノ」。僕にとってローマ料理が恋しくなると通うそんな店であった。惜しまれながらもこの12月29日で31年の歴史に幕を引く。
今回の「レストラン空間考」では、そのカピトリーノの空間をとりあげ、あらためてその魅力がどんなものなのかを探ってみようと思う。

表の店構えは至ってシンプル。白いスタッコ(左官塗り)風の壁にCAPITOLINOの文字。茶色く塗られた木製の鎧戸と木製の入口扉。リストランテというような華やかな飾りは何もない。毎日たくさんの店ができて消えて行く東京にあって、この店のある街の一角だけは、まるで時間が止まっているかのように何も変わらない。

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店内は10坪程の四角い空間に10脚のテーブルと20脚の椅子が壁沿いにL字型にレイアウトされ、その席が取り囲むようにしたホールの中央には、いつも10皿程の前菜(アンティパスト)が並べられている。厨房はその前菜が並ぶセンターテーブルの背面にあり、一応小さいながらもデシャップがあって、キッチンとのやりとりができるようになっている。 30年のあいだには何度か改装を重ねて今の状態になったという。最初の頃は個室のようなスペースもあったということだが、今のホールの広さからはどうやって個室を作っていたのか想像するのは難しい。

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「特に参考にした店はないんだよ。壁はちょっとベージュがかった白にして天井は木で仕上げたかったんだけど、お金がなくてね(笑)。結局壁や間仕切りの一部に焦げ茶の木を使ってぬくもりのある雰囲気を作ったんです」
今の店は昔の印象とは違っているかもしれないが、むしろのその長い時間の経過が創り出した独特の安心感がある。サッカーチームのペナント、古い絵皿、ポスターやたくさんの絵画、そして大きなアンティークミラー。壁に飾られたそれらの装飾物すべてにストーリーがある。イタリアの友人が苦労して持って来てくれた土産、店の記念日に贈られたもの。経過した時間のみが成せるわざである。これを一朝一夕で作り上げる事は不可能である。

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「実はローマの7つの丘にちなんで(株)セッテコッリ/SETTE COLLIという名前の会社を作ろうと思ったんですよ。この店の名前はそのなかでも一番高い丘、カピトリーノからとってOSTERIA CAPITOLINOという名前でスタートしたんです。目標は東京に7つの異なるタイプの飲食店、バールとかピッツェリアなどを作る事だったんです。ほんとはね」

テーブルクロスは黄色。やや肉厚なガラスのワイングラスにカトラリーが1セット並べられている。今ではイタリアでも新しいリストランテではこういうシンプルなテーブルセッティングは珍しくなっている。古い老舗のリストランテのセッティングだ。このテーブルの前に座るとなぜだか爽やかな白ワインをボトルで頼みたくなる。まさしく僕自身の経験からくる条件反射である。やや生冷えのフラスカーティをクーラーに入れて冷やしながら飲む。卵入りのフェットゥチーネやブカティーニ・アマトリチャーナ、トマトソースのニョッキを頼んでパルミジャーノの粉チーズをスプーンですくって、贅沢にふりかけて食べる。空間とテーブルの料理がまさに一つのテーマを共有する瞬間だ。

カピトリーノのホール空間にはレストランとしての不思議な一体感がある。いってみれば、知らない客同士が解け合っている。その要因の一つは全てのテーブルが壁に沿って並べられ、みんなで一つの空間を形成している印象があるからである。そしてそれぞれのテーブルの上がスポットライトで照らし出されて、それ以外の空間や通路が適度に意識的に隔離されているような雰囲気が作られている。またテーブルクロスの黄色も効果的に働いて空間を暖かい色で包み込んでいる。スケール感としても程よいサイズなのかもしれない。働くスタッフから見てもテーブルの客が主役で自分達が脇役という関係を演出する上でそれがいい結果を生んでいると言える。

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ローマの下町のレストラン。そこには普段の楽しい食卓がある。会話と笑い声、文句や愚痴の話と一緒に食器のふれあう音をBGMに流れる時間がある。カピトリーノにはそれと同質の時間が流れている。だからローマが恋しくなるとここにくる客がいるのだろう。レストランの空間はデザイナーや店主が作る部分はほんの小さなきっかけに過ぎない。本当の空間の質は、その店の歴史と、そこをおとずれる客によって作られるものなのだということを、あらためて考えさせられる。このような店から学ぶ事はまだまだ沢山あるような気がしている。
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2008年11月17日

第1回.「リストランテ フリック」/南青山

■ドリンクカウンターの新しいかたち

今年の5月にオープンしたばかりの新しいイタリアンレストラン。オーナーシェフの深田景さんは、植竹隆政シェフのもと、渋谷「ビゴロッソ」と代官山「カノビアーノ」で働いたあと、イタリアに渡って経験を積み、帰国後はイル・ギオットーネ丸の内で笹島保弘シェフの右腕として活躍した後独立。弱冠30歳の若さである。

自分のイメージに合う場所を探して約半年、ようやく見つけたのが、現在の青山の店鋪であったそうだ。一階に面して入口があること、賃貸条件、面積などが主な理由。場所は根津美術館の脇の坂道に面した新築のビルの2階、専用の外部階段を上がるとステンレスの扉があって、それがレストランへの入口になっている。通りに面したホールの開口は足元から天井までの大きなガラス面。さすがにレストランの空間としては落ち着きがないので、内側にレースのカーテンを一面に引いている。

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ホールは20席と、少ない席数であるが、空間は比較的ゆったりした印象をもつ。それは平面が不規則な形をしているために、テーブルの配置が難しいという理由があるのかもしれない。

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ホールの最大の特徴は、ドリンクカウンターをなくして、ドリンクの設備を壁に沿って並べ、その前に通称「シェフテーブル」なる大きなダイニングテーブルを置いているところ。(写真)そのテーブルには4つの席が用意されており、まさにカウンターのようになっている。このテーブルとドリンクコーナーの間にシェフが立つと、あたかもシェフの家に招かれて食事をしているような気分になる。それが深田シェフの狙いのようだ。

カウンターのない店ではあるが、このシェフテーブルの存在で、ひとりでも気軽に食事をとることができそうである。また、このシェフテーブル部分の天井は他の部分より一段低くなっているため、空間としても他からやや隔離された印象を持っている。照明もペンダント照明(天井から吊り下げられている照明)を使っており、住宅のダイニングテーブルをイメージさせる仕掛けがうまく使われている。

椅子はアルフレックスの定番チェア。アルフレックスは1951年に設立されたイタリアを代表するモダンファニチャーのブランド。座り心地が抜群である。木のフレームに牛革の紐を編んである。背が低い椅子でもあるので、空間全体の広がりを邪魔する事もない。椅子の皮には2種類の色があり、それらをうまく使い分けている。

厨房とホールの間には、デシャップ(配膳)カウンターにしては大きめの開口が設けられており、厨房からホールが見渡せるようになっている。これは代官山のカノビアーノや京都のイル・ギオットーネの厨房とホールの関係に似ている。カノビアーノではその間にガラスの仕切りが入っていたが、ギオットーネはカウンターで仕切られている。厨房の熱気がホールに伝わり、ホールの賑わいが厨房にいて感じられる造りである。フリックには厨房だけでも3〜4名のシェフが働いているので、ひとりで仕事をするためにホールを確認するというより、調理場とホールを客の方からも近く感じさせるための工夫だと想像できる。

厨房内にもシェフのこだわりがいくつか見られる。まず、ほぼ真四角の厨房の中で、ガスコンロやグリラーはアイランド形式といって、中央部分にすべて集中している。何人ものスタッフが一度に火のまわりに立てるような工夫であろう。中央にストーブ関係をまとめる事で、排気用のフードもひとつにまとめる事ができる。これに対してオーブンや冷蔵庫は壁に沿って並べられていた。

厨房のレイアウトは、シェフによってまちまち。その人の修業してきた店の良いところと悪いところを活かしながら、シェフが「自分の城」と思えるような工夫がなされている。狭い厨房空間で、効率的に多くのスタッフが立ち回るための工夫。それは深田シェフが経験した2人のビッグシェフの厨房から学んだ大切なポイントなのかもしれない。

リストランテ「フリック」
http://www.frick2008.com/

東京都港区南青山4-24-8
tel:03-6905-7311
ランチ/11:30〜14:00 LO
ディナー/18:00〜21:30 LO


ラベル:イタリアン
posted by ニコラス at 22:30| Comment(0) | TrackBack(0) | レストランインテリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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